反応熱・燃焼熱・エンタルピー については、乙種化学の学識にて出題される分野です。2012年からの過去の12年分から出題傾向をまとめました。気体の種類としては9種類出題されており、一見すると多いように思われます。しかしながら、計算方法は同じのため、比較的容易な問題です。
項目 | 出題数 |
プロパン | 2 |
アセチレン | 3 |
アセトアルデヒド | 1 |
酸化エチレン | 1 |
ジメチルエーテル | 1 |
メタノール | 1 |
プロペン | 1 |
メタノール | 1 |
ベンゼン | 1 |
ここでは、理想気体の分野における基本的な用語や知識に関する問題を掲載しています。問1~3は反応式の係数を求める問題です。問4、5は燃焼熱を求める問題です。問6~8は標準生成エンタルピーを求める問題です。
次の各問について、適切な語句や意味を答えなさい。
問1.a P4 + b NaOH + c H2O → d PH3 + e NaH2PO2のa、b、c、d、eの係数を解答せよ。
解答:a=1、b=3、c=3、d=1、e=3
反応式の係数を解く問題は、少し時間がかかりますが、コツさえつかめば解答しやすい問題です。ポイントは各原子の数に注目して解答しましょう。
一番最初の原子はリン(P4)です。生成物にはリン酸(PH3)とリン酸ナトリウム(NaH2PO2)があります。この時重要なことは左辺の原子の数と右辺の原子の数は同じだということです。
左辺のリンの数と右辺のリン酸のリン原子の数が同じであることから4a = d + eとなります。
同じようにしてナトリウム、酸素、水素の原子について左辺と右辺の数が同じになるように式を作ります。
リン(P):4a = d + e ・・・・①
ナトリウム(Na):b = e ・・・・②
酸素(O):b + c = 2e ・・・・③
水素(H):b + 2c = 3d + 2e ・・・・④
④-③より c = 3d この等式を満たす最小の整数はc=3、d=1
C=3を③に代入してb + 3 = 2eここで②を代入するとe + 3 = 2e → e = 3
e =3 より b = 3となります。
e = 3、d = 1を①に代入して a =1
なぜ、②のb = eを用い、最小のb=1、e=1を導き出さなかったのでしょうか。
そのまま、b=1、e=1を用いて計算していくと、整数にならず、再度計算の必要がでるからです。
このまま、この問題を解いてみましょう。
b=1、e=1を③に代入して1 + c =2 → c=1
また、④にb=1、c=1、e=1を④に代入して1 + 2 = 3d +2 → d=⅓
①に代入して4a = ⅓ + 1 → a=⅓
a=⅓、b=1、c=1、d=⅓、e=1反応式の係数は整数倍なのですべて3倍にして
a=1、b=3、c=3、d=1、e=3
このように回答できないわけではありませんが、整数倍にする作業が起きるため、c = 3dのような2以上の整数倍になっている式から当てはめていく方がよりスムーズに解答できるかと思います。
問2.a CH2=CHCH + b NH3 + c O2 → d CH3CN + e CO + f H2O のa、b、c、d、e、fの係数を解答せよ。
解答:a=2、b=2、c=3、d=2、e=2、f=4
炭素(C):3a = 2d + e ・・・①
水素(H):4a + 3b = 3d + 2f ・・・②
窒素(N):b = d ・・・③
酸素(O):2c = e + f ・・・④
②に③を代入して4a + 3d = 3d + 2f → 2a = f → a=1、f=2とし、b=d=1とすると①に代入してe=1となる。
④に代入してc=3/2
a=1、b=1、c=3/2、d=1、e=1、f=2反応係数は整数倍なので全て2倍して
a=2、b=2、c=3、d=2、e=2、f=4
問3.a COCl2 + b NaOH → c Na2CO3 + d NaCl + e H2Oのa、b、c、d、eの係数を解答せよ。
解答:a=1、b=4、c=1、d=2、e=2
炭素(C):a = c ・・・①
塩素(Cl):2a = d ・・・②
ナトリウム(Na):b = 2c + d ・・・③
酸素(O):a + b = 3c + e ・・・④
水素(H):b = 2e ・・・⑤
④に①、⑤を代入して c + 2e = 3c + e → e = 2cよりc=1、e=2とすると①、⑤にそれぞれ代入してa=1、b=4となる。また、②に代入してd=2
問4.n-ブタンの燃焼熱を求めよ。ただし、 n-ブタン、 二酸化炭素、H2O (l)およびH2O(g)の標準生成エンタルピーはそれぞれ次のとおりである。
n-ブタン -147kJ/mol
二酸化炭素 -394kJ/mol
H2O(l) -286kJ/mol
H2O(g) -242kJ/mol
解答:2639kJ/mol
n-ブタンの燃焼反応は、C4H10 + 14/2 O2 → 4CO2 + 5H2O
本来、反応式の係数は整数ですが、今回のように、燃焼熱を求める場合、ブタン1molにして求める必要があります。そのため、酸素の係数は分数で構いません。
また、燃焼熱を求める際、酸素は関係ありません。
ΔH° = (生成系のΔHf°の総和) – (原形のΔHf°の総和)
= (4H2O + 5H2O(l)) – (C4H10)
=(4×(-394) + 5×(-242)) – (-147)
=-1576 + (-1210) + 147
=-2639
燃焼熱G=-ΔH°よりG=2639
問5.プロパンの燃焼熱を求めよ。ただし、 プロパン、 二酸化炭素、H2O (l)およびH2O(g)の標準生成エンタルピーはそれぞれ次のとおりである。
プロパン -106kJ/mol
二酸化炭素 -394kJ/mol
H2O(l) -286kJ/mol
H2O(g) -242kJ/mol
解答:2044kJ/mol
n-ブタンの燃焼反応は、C3H8 + 9/2 O2 → 3CO2 + 4H2O
ΔH° = (生成系のΔHf°の総和) – (原形のΔHf°の総和)
=(3×(-394) + 4×(-242)) – (-106)
=-1182 + (-968) + 106
=-2044
燃焼熱G=-ΔH°よりG=2044
よびH2O(g)の標準生成エンタルピーおよびプロパンの標準燃焼エンタルピーはそれぞれ次のとおりである。
エタン -1,411kJ/mol
二酸化炭素 -394kJ/mol
H2O(l) -286kJ/mol
H2O(g) -242kJ/mol
解答:-173kJ/mol
エタンの燃焼反応は、
C2H6 + 7/2O2 = 2CO2 + 3H2O + 1411kJ/mol
ここで、ΔH° = (生成系のΔHf°の総和) – (原形のΔHf°の総和)であるから、
-1,411kJ/mol = (CO2の標準生成エンタルピー + H2Oの標準生成エンタルピー) - (C2H6の標準生成エンタルピー + O2の標準生成エンタルピー)
上記の式を入れ替えると
C2H6の標準生成エンタルピー = (CO2標準生成エンタルピー + H2Oの標準生成エンタルピー) - (O2の標準生成エンタルピー) - (-1411kJ/mol)
ここにH2Oの標準生成エンタルピー:-286kJ/mol、CO2の標準生成エンタルピー:-394kJ/molを代入します。
また、O2は単原子分子のため、標準生成エンタルピーが0kJ/molとなります。
C2H6の標準生成エンタルピー = 2 × (-394kJ/mol) + 3 × (-286kJ/mol) – (-1,411kJ/mol)
= -788kJ/mol + (-858kJ/mol) + 1,411kJ/mol
= -173kJ/mol
問7.ベンゼンの標準生成エンタルピーはおよそいくらか。ただし、 二酸化炭素、H2O (l)およびH2O(g)の標準生成エンタルピーおよびベンゼンの標準燃焼エンタルピーはそれぞれ次のとおりである。
ベンゼン -3,268kJ/mol
二酸化炭素 -394kJ/mol
H2O(l) -286kJ/mol
H2O(g) -242kJ/mol
解答:-46kJ/mol
ベンゼンの燃焼反応は、
C6H6 + 15/2O2 = 6CO2 + 3H2O – 3,268kJ/mol
ここで、ΔH° = (生成系のΔHf°の総和) – (原形のΔHf°の総和)であるから、
-46kJ/mol = (CO2の標準生成エンタルピー + H2Oの標準生成エンタルピー) - (C6H6の標準生成エンタルピー + O2の標準生成エンタルピー)
上記の式を入れ替えると
C6H6の標準生成エンタルピー = (CO2標準生成エンタルピー + H2Oの標準生成エンタルピー) - (O2の標準生成エンタルピー) - (-46kJ/mol)
ここにH2Oの標準生成エンタルピー:-242kJ/mol、CO2の標準生成エンタルピー:-394kJ/molを代入します。
また、O2は単原子分子のため、標準生成エンタルピーが0kJ/molとなります。
C6H6の標準生成エンタルピー = 6 × (-394kJ/mol) + 3 × (-286kJ/mol) – (-46kJ/mol)
= -2,364kJ/mol + (-858kJ/mol) + 3,268kJ/mol
= -46kJ/mol
問8.メタノールの標準生成エンタルピーはおよそいくらか。ただし、 二酸化炭素、H2O (l)およびH2O(g)の標準生成エンタルピーおよびエタノールの標準燃焼エンタルピーはそれぞれ次のとおりである。
メタノール -730kJ/mol
二酸化炭素 -394kJ/mol
H2O(l) -286kJ/mol
H2O(g) -242kJ/mol
解答:-236kJ/mol
メタノールの燃焼反応は、
CH3OH + 3/2O2 = CO2 + 2H2O – 730kJ/mol
ここで、ΔH° = (生成系のΔHf°の総和) – (原形のΔHf°の総和)であるから、
-730kJ/mol = (CO2の標準生成エンタルピー + H2Oの標準生成エンタルピー) - (CH3OHの標準生成エンタルピー + O2の標準生成エンタルピー)
上記の式を入れ替えると
CH3OHの標準生成エンタルピー = (CO2標準生成エンタルピー + H2Oの標準生成エンタルピー) - (O2の標準生成エンタルピー) - (-1370kJ/mol)
ここにH2Oの標準生成エンタルピー:-286kJ/mol、CO2の標準生成エンタルピー:-394kJ/molを代入します。
また、O2は単原子分子のため、標準生成エンタルピーが0kJ/molとなります。
CH3OHの標準生成エンタルピー = (-394kJ/mol) + 2 × (-286kJ/mol) – (-730kJ/mol)
= -394kJ/mol + (-572kJ/mol) + 730kJ/mol
= -236kJ/mol
次の各問いに答えよ。
問1.a NH3 + b Cl2 → c N2 + d NH4Clのa、b、c、dの係数を解答せよ。
解答:a:8、b:3、c:1、d:6
炭素(C):a = 2c + d ・・・①
水素(H):3a = 4d ・・・②
塩素(Cl):2b = d ・・・③
②より、a=4、d=3とすると③よりb=3/2となる。①に代入して4 = 2c + 3 → c=1/2
a=4、b=3/2、c=1/2、d=3反応式は整数なのですべて2を掛けるとa;8、b;3、c;1、d;6となる。
問2.a P4 + b H2O → c PH3 + d H3PO4のa、b、c、dの係数を解答せよ。
解答:a=2、b=12、c=5、d=3
リン(P):4a = 3c + d ・・・①
水素(H):2b = 3c + 3d ・・・②
酸素(O):b = 4d ・・・③
③よりb=4、d=1とすると②より8 = 3c + 3 → 5 = 3c → c=5/3
①に代入して 4a = 5/3 + 1 → 4a = 8/3 → a =⅔
a=2/3、b=4、c=5/3、d=1 反応式は整数なので3倍して
a=2、b=12、c=5、d=3
問3.プロパンの標準生成エンタルピーはいくらか。ただしプロパンの標準燃焼エンタルピー、二酸化炭素および水の標準生成エンタルピーはそれぞれ、次の通りとする。
プロパン :-2044kJ/mol
二酸化炭素 :-394kJ/mol
水 :-286kJ/mol
解答:-279kJ/mol
化学式はC3H8 + 5O2 → 3CO2 + 4H2O
プロパンの標準生成エンタルピーをxとすると、ΔH° = (生成系のΔHf°の総和) – (原形のΔHf°の総和)より
-2044 = 3×(-394) + 4×(-286) – x
x=-279
問4.アセチレンの標準生成エンタルピーはいくらか。ただしアセチレンの標準燃焼エンタルピー、二酸化炭素および水の標準生成エンタルピー はそれぞれ、次の通りとする。
アセチレン :-1300kJ/mol
二酸化炭素 :-394kJ/mol
水 :-286kJ/mol
解答:226kJ/mol
化学式はC2H2 + 5/2O2 → 2CO2 + H2O
アセチレンの標準生成エンタルピーをxとすると、ΔH° = (生成系のΔHf°の総和) – (原形のΔHf°の総和)より
-1300 = 2×(-394) + (-286) – x
x=226
問5.メタンの燃焼熱を求めよ。ただし、 メタン、 二酸化炭素、水の標準生成エンタルピーはそれぞれ次のとおりである。
メタン :-894kJ/mol
二酸化炭素 :-394kJ/mol
水 :-286kJ/mol
解答:-72kJ/mol
化学式はCH4 + 2O2 → CO2 + 2H2O
プロパンの標準生成エンタルピーをxとすると、ΔH° = (生成系のΔHf°の総和) – (原形のΔHf°の総和)より
-894 = (-394) + 2×(-286) – x
x=-72